HOME = 海辺のカフカ (上) (新潮文庫)
  

Rating: 3 out of 5 stars - 世界で一番タフな15歳への道
「まだなんにも始まってもいないうちから、暗いことばかり並べたててもしょうがないものな。君はもう心をきめたんだ。あとはそれを実行に移すだけのことだ。なにはともあれ君の人生なんだ。基本的には、君が思うようにするしかない。」

「そう、なにはともあれこれは僕の人生なのだ。」

「しかしなんといっても君はまだ15歳なんだ。君の人生は、ごく控えめに言って、まだ始まったばかりだ。君がこれまで見たこともないようなものが、世界にはいっぱいあるわけさ。今の君には想像もできないようなものがね。」

「君はこれから世界で一番タフな15歳の少年にならなくちゃいけないんだ。なにがあろうとさ。そうする以外に君がこの世界を生きのびていく道はないんだからね。そしてそのためには、本当にタフであるというのがどういうことなのか、君は自分で理解しなくちゃならない。わかった?」

「そして、もちろん、君はじっさいにそいつをくぐり抜けることになる。そのはげしい砂嵐を。そいつは千の剃刀のようにするどく生身を切り裂くんだ。何人もの人たちがそこで血を流し、君自身もまた血を流すだろう。温かくて赤い血だ。君は両手にその血を受けるだろう。それは君の血であり、他の人たちの地でもある。そしてその砂嵐が終わった時、どうやって自分がそいつをくぐり抜けて生きのびることができたのか、君にはよく理解できないはずだ。いや本当にそいつが去ってしまったのかどうかもたしかじゃないはずだ。でもひとつだけはっきりしていることがある。その嵐から出てきた君は、そこに足を踏み入れた時の君じゃないっていうことだ。そう、それが砂嵐というものの意味なんだ。」

「なんだかおとぎ話みたいに聞こえるかもしれない。でもそれはおとぎ話じゃない。どんな意味合いにおいても。」

「ナカタさん、ここはとてもとても暴力的な世界です。誰も暴力から逃れることはできません。その事はどうかお忘れにならないでください。どんなに気をつけても気をつけすぎるということはありません。猫にとっても人間にとっても。」

「しかし森の中が危険にみちていることを僕は実感する。その事を忘れないようにしなくては、と自分にいいきかせる。カラスと呼ばれる少年が言ったように、この世界には僕の知らないことがいっぱいあるのだ。
森の中は樹木が支配する場所なのだ。深い海の底を深海の生き物たちが支配するように。必要があれば森は僕をあっさりとはねつけ、あるいは呑みこんでいくかもしれない。僕はたぶんそれらの樹木に対して、ふさわしい敬意やおそれのようなものをもたなくてはならないのだろう。」

「僕はその輝く夜空の下で、再び激しい恐怖に襲われる。息苦しくなり、心臓の動悸が速まる。これほどすさまじい数の星に見おろされながら生きてきたというのに、僕は彼らの存在に今まで気づきもしなかった。星についてまともに考えたことなんて一度もなかった。いや、星だけじゃない。そのほかにどれくらいたくさん、僕の気付かないことや知らないことが世の中にはあるのだろう?そう思うと、自分が救いようのなく無力に感じられる。どこまで行っても僕はそんな無力さから逃げきることはできないのだ。」

「僕はその光の中に腰を下ろし、太陽のささやかな温かみを受け取る。太陽の光が人間にとってどれくらい大切なものかをあらためて僕は知る。」






Rating: 5 out of 5 stars - 想像力次第で。
想像を巡らせばかなり感動にふける事ができる。
単純に、ハリーポッターシリーズのようにすごく夢中になれる本だった。



Rating: 5 out of 5 stars - ムラカミ世界への入門
  「1Q84」のBOOK3も好調な販売が続く状況で、この「カフカ」を再読してみた。「1Q84」が未だ完結していない現状で、村上作品の中では、完成された形で終わっているこの「カフカ」はそれなりにとても興味深い。

 同時進行のパラレル・ワールドが描かれている、激しい雷雨の後には変わっている世界が描かれる、僕はしっかりと堅く堅く勃起する等々の世界が描かれる。
ナカタさんの口から溢れるように出てくるざわざわと白く細長い粘液上の物体は、「空気さなぎ」もどきか? 
さらにこのナカタさんにしろ、満蒙開拓団のエピソードにしろ、この前の戦争の後遺症を引きずっているのか?
読み手によって、行くとおりにも読み込むことができる、再読すれば、初めて読んだときとは違う思いにとらわれる。
 さまざまなキャラクターは何かを象徴しているのだろうか、とすればそれは何か? 
ナカタさんが殺してしまったジョニー・ウオーカーは?
入り口の石は?
カーネル・サンダースは?

 事前に引かれたさまざまな伏線が、「?」の状態で終わり、最後まで読んでもわからない点が多々ある。しかし、それはそれでいいと思わせるのが、これまた村上作品の特徴かもしれない。
戦時中の乙組担任の岡持節子先生が経験したあの事件の顛末は?
佐伯さんの25年間の空白時代は?
死んだままのナカタさんは? それからの星野青年は? なんてことを考えるときりがない。 

「目が覚めたとき、君は新しい世界の一部になっている」という最後の一行を読んだとき、読者はほっとするのだ、これでいいと思ってしまうのだ。

村上作品には、同じキャラクターが何度か他の作品に登場することがあるのも、不思議である。佐伯さんがナカタさんに依頼して燃やしてしまったあの分厚い3冊のファイルは、ひとつの作品になってリリースされるかもしれないし、読者としては「1Q84」の「空気さなぎ」も読みたい本である。
 
ニューヨーカーも納得済みのアメリカでもベストセラーのこの「カフカ」、何年かごとにもう一度読み返してみれば、はて、そのときはどういう気分になるのだろう。




Rating: 1 out of 5 stars - 残念です
以前から立ち読みなどでしか接していなかった作家で、またなにぶん最近も話題の作家ですので、この度ついに購入して通読してみました。・・・というタイプの読者さんの例に漏れないかもしれませんが、結論から言うとがっかりの一言。

全体的に著者の、芸術というよりは文学一般にたいするコンプレックスが炸裂してる感じがしてなりませんね。そのような印象を強くしてしまうのは、たぶん、この小説世界に実現していないものを、登場人物が折々で、過去の作家や作品にちなんで「台詞」として名目的・表層的に発言するシーンが多いことにもあるかと思われます。そこで引用される芸術論や作家論などが、実際の小説の流れにおいて効果的とは言い難く、こじつけのような感じが否めません。またそのような登場人物自体も、その設定されている特異な個性に比して存在感がほとんど感じられないほどに印象が薄い。

また表現一般にオリジナリティーが感じられないのですが、これは意図的なものかな?という気もしますが、とにかく読んでみて後に残るものがないですね。文章が読みやすい小説というのも曲者だということを初めて身を持って知った気がします。この本を読んでいた時間は私にとっての「失われた時間」でありその意味では今後は時間を大切にしようという気を起こさせてくれる、そんな本です。



Rating: 5 out of 5 stars - 静と動
●1回目
周りから必要とされない存在である田中とナカタ。

二人は異なった形で、形而上的で象徴的な砂嵐をくぐり抜ける事となる。嵐の中にまっすぐ足を踏み入れ、砂が入らないように目と耳をしっかりふさぎ、一歩一歩とおり抜けようとする…。

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●2回目
不可避な運命に対峙した先には、何が待ち受けているのでしょうか。


「先を見すぎてもいけない。先を見すぎると、足もとがおろそかになり、人は往々にして転ぶ。かといって、足もとの細かいところだけを見ていてもいけない。よく前を見ていないと何かにぶつかることになる。だからね、少しだけ先を見ながら、手順にしたがってきちんとものごとを処理していく。こいつが肝要だ。何ごとによらず」


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